室内環境対応・配慮形塗料について

室内における健康・安全・環境を考えた塗装設計・施工マニュアル

( (社)日本塗料工業会 発行資料に準拠 )

室内環境対応建築塗料について (大日本塗料株式会社 技術解説)
1.シックハウスについて
 1)シックハウス問題とは
   最近、新築の住宅に入居した人や住宅を改修した後に体調を悪くしたと言うことを訴える
    人が増えてきています。
    これは、建材に化学物質が使われていることや省エネルギーのために、住宅の気密性を
    高くしたために室内の化学物質の濃度が高くなった影響と言われています。
 2)シックハウスの症状と要因
    シックハウスと言われる症状は体調不良や皮膚障害、自律神経失調など多様であり、
    必ずしも特定な症状として現れないため総称的には「シックハウス症候群」と呼ばれて
    います。
    これらの状態の原因となる化学物質は合板、接着剤、塗料、絨毯、畳、防蟻剤などから
    放出されると言われますが、実際にはどのような物質が原因となっているかを明確に
    することは難しいのが現状です。
    これは、原因や症状などについてまだ医学的に十分解明されておらず、どのような化学
    物質が引き金となっているかをきめることが難しい状況にあるためです。
2.住宅に関係する化学物質と健康影響との関係
 1)急性中毒
    化学物質に短期に曝された時に生じる健康影響で、塗装時の溶剤の中毒などのように
    高い濃度に曝された場合にすぐ起きる影響です。
    溶剤などによる中毒の場合には、目やのどの痛み、呼吸困難、めまい、頭痛、吐き気
    などが起き、ひどい場合は失神する場合があります。
 2)感作性(アレルギーを引き起こす性質)
    住宅に関するもののうち「かび」「ダニ」などがアレルゲン(アレルギーの原因となるもの)と
    なりますが、化学物質にもアレルギーなどを引き起こすものがあります。
    アレルギーは誰にでも起こるものではなく、体質や体調により影響が違って現れます。
    アレルギーの症状としては皮膚ではかゆみや湿疹、呼吸器では喘息などとして現れます。
    化学物質としてはホルムアルデヒド、ある種の殺虫剤などが知られています。
 3)化学物質過敏症(本態性化学物質過敏状態)
    ホルムアルデヒド、キシレン、トルエン等のVOC(揮発性有機化学物質)、殺虫剤、可塑剤
    などの化学物質に大量にさらされたり、または少しでも継続して長期間暴露することによっ
    て引き起こされると言われていますが医学的にもまだはっきりしていません。
    この場合も、誰にでも発症するのではなく、体質などにより影響の出方が異なると言われ
    ています。
    症状としては、自律神経異常、皮膚障害、肩こり、頭痛、吐き気など多様な形で現れてくる
    と言われています。
 4)臭気の影響
    臭気も室内環境の対応すべき問題として重要です。
    人を感知する化学物質による臭気の感知は、化学物質それぞれによって異なり、それらの
    化学物質の健康に影響を与える濃度(室内環境濃度指針値)との関係で注意が必要です。
    例えば、、ホルムアルデヒド、キシレン、トルエン等では臭気が無くても影響を与える濃度
    領域に入り、臭気を感じた時には、既に室内濃度指針値以上の範囲に入っているものがあ
    ります。
    又、逆に臭気があっても危険でない場合もあります。
    しかし、中には臭気に敏感なため、特定の臭気があるというだけで嫌悪を感じて、そこに住
    めない人もいます。
3.化学物質の室内環境濃度の基準について
   シックハウス対策においては、その要因となる化学物質の室内濃度が問題となります。
   このために、厚生労働省はホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等の特定な化学物質に
   対して人が健康に住めるための目安となる室内濃度指針値を出しております。
   これは、住宅を造る、購入する改修する場合などにおいての参考になると考えられます。
  厚生労働省の規制
厚生労働省の室内濃度に対する指針値
物質名 室内濃度指針値μg/m3(ppm/25℃)
ホルムアルデヒド 100(0.08)
トルエン 260(0.07)
キシレン 870(0.20)
パラジクロロベンゼン 240(0.04)
エチルベンゼン 3800(0.88)
スチレン 220(0.05)
クロルピリホス 1.0(0.07ppb)
小児0.1(0.007ppb)
フタル酸ジーn−ブチル 220(0.02)
テトラデカン 330(0.04)
フタル酸ジー2−エチルヘキシル 120(7.6ppb)
ダイアジノン 0.29(0.02ppb)
n−ノナナール 41(0.007)
アセトアルデヒド 48(0.03)
フェノブカルブ 33(15ppb)
単位 : ppm=100万分の1    ppb=10億分の1
これらの物質に加え、今後も対策物質の追加が検討されています。
又、これら特定の物質だけでなく揮発性有機化学物質の総量(TVOC)についても目標値を
提示しています。

暫定目標値   TVOC    400μg/m3

VOCとは揮発性のある有機化学物質の事です。
シックハウス問題に関するVOCは、前記のような特定の化学物質以外でも健康影響が考え
られるため、総合的にTVOCとして管理することが必要と考えられるため提案されたものです。

※TVOC : Total Volatile Oganic Compounds
(総揮発性有機化合物質)

4.塗料種と化学物質
塗料は数種の化学物質を使用しており、塗装時及び塗膜になってからの化学物質の放散は
それぞれ異なります。
建築用に使用する場合は、その組成物質、放散される物質の人への影響を注意して考え、
採用する塗料や塗装方法を注意深く検討し、施工する必要があります。
5.塗料中のVOC
塗料は多数の化学物質を用いており、有機溶剤はVOCとして特に問題になります。
塗料の種類は大別して、溶剤系と水性系に分けられます。
塗料種類 有機溶剤量 主要溶剤 用途
水性系 エマルション形 僅か アルコール類 無機素材等
水溶性形 少量 金属部・木部等
溶剤系 合成樹脂調合ペイント 中程度 ミネラルスピリット 金属部・木部等
フタル酸樹脂塗料 中程度 キシレン他 金属部・木部等
ラッカー類 多い キシレン・トルエン他 木部等
非水分散形塗料 中程度 ミネラルスピリット 無機素材等
ビニル樹脂系 多い キシレン・トルエン他 無機素材等
ウレタン樹脂塗料 多い キシレン・トルエン他 金属部・木部等
溶剤形シーラー 多い キシレン・トルエン他 無機素材等(外壁用)
溶剤形塗料は塗膜品質と作業性が優れているのが特長ですが、住む人の安全や健康を
考えずに溶剤形塗料を選択することは、塗装後に問題を引き起こす可能性があります。
有機溶剤類は一括してVOC(揮発性有機化合物)に分類されますが、実際は溶剤の種類
毎に有害物が異なっています。
キシレン、トルエンなど芳香族炭化水素系の溶剤を使用した塗料は室内塗装にはできる
限り避けることが望ましい。
※現在では、住宅の内部・外装用として有機溶剤量が少ない水性系のエマルション塗料
 が多く使用されています。
 すでに居住者のいる場合、又は塗装してから短期間で入居するような条件の場合には、
 原則として水性系塗料で塗装仕様を決めることをお奨めします。
6.日本塗料工業会では
現在、建築用に使用されているエマルション塗料の希釈剤は殆ど水で有機溶剤の使用は
非常に少なく、他の組成を併せて評価しても有害性のレベルは低いが、さらにリスクを低下
することを目標として基準を設定した。

健康リスクに対する建築用塗料の目標基準(日塗工)

塗料設計条件 エマルション塗料 溶剤型塗料 備  考
TVOC 1%以下   塗装時の条件による沸点
250℃以下を対象
芳香族系溶剤 0.1%以下 1%以下 塗料の条件による
アルデヒド類 0.01%以下 0.01%以下 ホルムアルデヒド
アセトアルデヒドを対象
重金属類 0.05%以下 0.05%以下 鉛、クロム、カドミウム、
砒素、水銀
発ガン性物質
生殖毒性物質
変異原性物質
0.1%以下 0.1%以下   
感作性物質 0.1%以下 0.1%以下  
7.環境対応形塗料


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